抄録
転写因子(TF)は、その支配にある遺伝子群の発現を調節する。TF遺伝子の過剰発現により、イネTFの働きを改変したイネ系統の作出は、TF自身および標的遺伝子群の機能および発現ネットワークの解明のための効果的なリソースになると期待される。本研究では約2,500種類ほどあるといわれるイネTFをコードする遺伝子座の約75%をカバーするFull-Length (FL-) cDNAクローンを用い、各種TF cDNA過剰発現(TF-OX)イネ系統を作出中である。また、産総研と連携し、同TFのキメラリプレッサー発現系統も作製している。始めに、各TF FL-cDNAに対して機能的ORF配列の解析を行い、推定されたORFをもとに、各TF cDNAのGatewayエントリークローンおよびTF-OXベクターを作製した。現在までに188種類のTF-OXベクターをイネに個別導入し、129種類のTF形質転換イネより再分化個体(総計847個体)を得ている。これらイネ系統の再分化当代の表現型を観察したところ、草丈の伸長、半わい性、多分げつ、散開型分げつ、稈や葉身のねじれ、短粒、病斑形成等の異常形質が、特定のTF-OXイネ系統群から見出された。本発表ではTF-OXイネ系統の作出状況、導入TF cDNAの発現、これまでに観察された興味深い表現型等について紹介する。