抄録
紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusには、光化学反応中心複合体への電子伝達体として、HiPIP、チトクロムc4、高電位(HP)及び低電位(LP)チトクロムc8がある。これら全てを欠損した株は遅いながらも光合成条件下での生育が可能であり、高頻度で光合成生育速度が復活する突然変異株が現れる。近年、この変異株に大量発現しているイソ型高電位(iso-HP)チトクロムc8を単離同定した。今回はこのiso-HPチトクロムc8を精製して膜標品との再構成実験を行ったところ、HPチトクロムc8のおよそ1/4の速度で反応中心への電子伝達が観察された。また、チトクロムbc1の電子伝達阻害剤を用いた再構成実験より、iso-HPチトクロムc8は反応中心、チトクロムbc1、キノンプールと共に構成される循環的電子伝達経路で機能しうることが示唆された。さらにiso-HPチトクロムc8遺伝子を含む約10kbの塩基配列を決定したところ、緑膿菌の亜硝酸還元酵素遺伝子群とほぼ同様の遺伝子群が保存されており、iso-HPチトクロムc8はチトクロムbc1から亜硝酸還元酵素への電子伝達を行うNirMと59%の相同性があった。しかし本細菌には硝酸還元能は認められず、亜硝酸還元能については報告例がない。現在はiso-HPチトクロムc8の生理機能を明らかにすべく遺伝子欠損株を作成中である。