抄録
葉緑体ATP合成酵素(CFoCF1)は、光合成の電子伝達系からの還元力により葉緑体チオレドキシンを介して還元され活性化する。この酸化還元調節に関わるジスルフィド結合は、CF1のγサブユニット下部にあり、単離酵素を用いた研究からその還元により酵素活性が著しく上昇することは以前から知られている。ところが、葉緑体内のγサブユニット自体の還元状態については、酵素活性の変化を葉緑体チラコイド膜ルーメンの酸性化に起因する蛍光変化によって間接的に捉えた報告があるのみで、光照射下での還元レベルは測定されていないし、そもそも、この酸化還元調節が野外に生育している植物のATP合成酵素の調節にどの程度寄与しているのかも明らかにされていない。
私たちは、ホウレンソウ緑葉から調製した無傷葉緑体を用い、光照射によるγサブユニットの還元レベルを、電気泳動的に還元型・酸化型蛋白質を分離し識別する方法で測定した。その結果、H+の電気化学ポテンシャル形成時にのみγが還元されることが分かった。次に、ホウレンソウ生葉を用いて光還元の日周変化を測定した。γの還元および酸化と他のチオール酵素の酸化還元の比較から、この酵素のチオール調節の生理的な意義について考察する。