抄録
我々は、ゴマノハグサ科のトレニアをモデルに、新形質を有する花きを効率的に作出する手法の開発を複数のアプローチで進めている。ここで得られた植物に、第2ウォールが萼化した変異体(系統番号252)が見出された。この変異体の表現型は、花器官形成のABCモデルにおけるクラスB遺伝子機能の欠損に原因があると予想された。本研究は、この252変異体表現型の原因遺伝子の特定と、トレニアにおける花器官形成に関わる情報の収集を目的とした。
トレニアのクラスB遺伝子の発現をRT-PCRにて解析した結果、変異体ではTfGLOの発現が全く認められなかった。しかしながら、変異体におけるTfGLOのゲノム配列に変異は見られなかった。このことから、変異体におけるTfGLOの発現の欠損は、上流の発現調節因子への変異に起因することが推察された。他植物種では、クラスB遺伝子の発現に関与する調節因子としてSQUA、LFYおよびUFOが報告されている。これら因子の発現をRT-PCRにて解析した結果、変異体ではTfUFO mRNAの蓄積が減少していた。変異体におけるTfUFOのゲノム配列を調べた所、アミノ酸置換が生じる変異が認められた。変異体でTfUFOを過剰発現させると変異表現型が回復し、野生型でのRNAiによるTfUFOの抑制が変異体と同様の表現型を示したことから、変異の原因はTfUFOの機能喪失であることが示唆された。