抄録
単為結果とは植物において受精を経ずに果実形成・肥大する現象であり、植物ホルモンのジベレリンやオーキシンの関与が示されているが、果樹における単為結果機構の詳細は未だ不明な点が多い。そこで本研究はナシを用いて単為結果性機構を解明することを目的として行った。まず一部の品種が単為結果性を示すとされているセイヨウナシとチュウゴクナシを用いて単為結果性品種の探索を行った。チュウゴクナシ27品種、セイヨウナシ8品種及びセイヨウナシとニホンナシの雑種2品種を用いて除雄のみ、除雄+自殖、除雄+他殖の3区で試験を行った結果、チュウゴクナシ12品種、セイヨウナシ7品種及び雑種2品種の除雄あるいは除雄+自殖区で果実形成が見られ、それぞれ9品種、5品種及び1品種で果実肥大が観察された。セイヨウナシの単為結果性は次世代でも観察されたことから優性あるいは半優性の形質であると予想された。一方、自家和合性ニホンナシの「おさ二十世紀」とチュウゴクナシの「慈梨」から自殖F2集団を作成し、257のF2集団中に単為結果性を示す3個体を見いだした。このうち1個体は雄性不稔であり、他2個体は種子形成が中断していた。これらと単為結果しないF2個体の開花時の花を用いて、マイクロアレイ解析を行った結果、3個体で共通に39遺伝子の発現が2倍以上変化していた。この結果から、3個体に共通の単為結果機構が存在する可能性が示唆された。