抄録
サツマイモ培養細胞の液胞にはクロロゲン酸などのカフェ酸エステルが著量に蓄積され、その生合成中間体であるp-クマロイルグルコース(pCG)も液胞に局在する。これらの事実から、カフェ酸エステルが液胞内で生合成される可能性が示唆されている。我々は先に、pCGの3位水酸化によりカフェオイルグルコースが生成される反応がポリフェノールオキシダーゼ(PPO)により触媒されることを明らかにした。しかし、植物PPOは葉緑体ストロマおよびチラコイド内腔へのターゲッティングドメインをN末端に持つ葉緑体(色素体)局在性タンパク質であり、液胞タンパク質ではない。今回、液胞内でのpCGの水酸化にPPOが関与する可能性を検証するため、液胞分画への色素体の移行について検討した。1)細胞を新鮮培地へ移植するとカフェ酸エステルが増加する。そのとき、色素体局在性60-kD型PPOが液胞局在性システインプロテアーゼによりプロセシングされ40-kD型PPOが出現する。2)その液胞には、細胞質由来と思われる構造物が電子顕微鏡で多数観察される。3)オートファジー過程で出現する膜構造物を染色するMDCにより蛍光染色される構造物が同時期の細胞で多数観察される。これらの結果から、カフェ酸エステルの生合成過程で色素体が液胞へ移行し、pCGの水酸化にPPOが関与している可能性が示唆された。