抄録
モリブデン(Mo)は生物の必須元素であり、補酵素の構成成分として硫黄代謝や窒素利用、植物ホルモン生合成に必須である。シロイヌナズナモリブデン酸イオン輸送体MOT1は硫酸イオン輸送体と相同性がある。本研究では硫酸イオン輸送体のMo輸送への関与を調べた。
硫酸イオン輸送体ファミリーに分類される12個の遺伝子のすべてについてT-DNA挿入変異株をそれぞれ1系統以上取得し、それらを通常培地(170 nM Moを含む)で栽培し、地上部と根についてMo含量と生育量を調べた。地上部についても根についてもMo濃度に有意な差がみられたのは高親和型硫酸イオン輸送体SULTR1;2の破壊変異株のみであった。この変異株のMo濃度は地上部では野生型株の78%に低下し、根では37%に低下していた。この現象がsultr1;2の変異によるものであることを確認するために、3つのアリル(sel1-8, sel1-9, sel1-10、sel1はSULTR1;2の変異株である)についてMo濃度を測定したところ、地上部ではそれぞれ野生型株の56%, 55%, 68%に低下しており、根では22%, 37%, 32%に低下していた。これらの結果はSULTR1;2がMoの輸送に関与していることを示している。一方、生育については、特定の変異株で抑制がみられたものの、これらの変異株で共通に見られる違いはなかった。