抄録
低温環境下の高等植物において、細胞学的変化、生理・生化学的変化が観察される。その中で、ミトコンドリアに関連する変化を指摘する研究事例は多い。本研究では、低温とミトコンドリア遺伝子発現の関係を明らかにする目的で、グループIIイントロンを持つ全てのミトコンドリア遺伝子について、スプライシングとRNAエディティングの低温に対する変化を解析した。材料には、熱帯原産の低温感受性植物イネと半乾燥地帯原産で低温馴化能を持つ植物コムギを用いた。12℃で14日間処理したイネ茎葉部において、イントロンを含む前駆体転写産物の蓄積は増加するか変化が見られず、減少に転じたものは無かった。さらにRNAエディティングの生じていない箇所が認められた。スプライシングを経た転写産物の蓄積については減少するか変化が見られなかった。一方、0.5~2℃で14日間処理したコムギ茎葉部において、前駆体転写産物の蓄積は全ての遺伝子で増加し、RNAエディティングの頻度が著しく低下する箇所があった。スプライシングを経た転写産物の蓄積は増加するか変化が見られなかった。低温によって前駆体転写産物の蓄積が増加するのは一般的な傾向であるが、前駆体転写産物とスプライシングを経た転写産物の増減には相関はない。低温に対する成熟型転写産物の蓄積量変化の違いが、イネとコムギの低温馴化能の違いを反映しているなら興味深い。