抄録
高等植物における,ポリプレノールやドリコール等のZ,E混合型ポリイソプレノイドの生理的意義については不明な点が多い.Z,E混合型ポリイソプレノイドの基本骨格生合成はシス型プレニル鎖延長酵素(CPT)により触媒されるが,これまでに,シロイヌナズナCPTの一つであるAtCPT5が,高等植物に特異的なC30-35のZ,E混合型ポリイソプレノイドの生合成を触媒していることが明らかとなった.また,その発現が低温などのストレスやABA処理で誘導されることから,中鎖のZ,E混合型ポリイソプレノイドが植物のストレス応答に関与していることが予想された.本発表では,AtCPT5およびその反応生成物のストレス応答における生理機能を解明するために、AtCPT5のT-DNA挿入変異体atcpt5を用いたストレス耐性試験を行った結果を報告する.AtCPT5は主に根で発現しているが,AtCPT5過剰発現では主根の伸長が抑制されたのに対し,atcpt5においては側根数が減少する表現型を示した.塩,高浸透圧,低温,酸化的ストレスによる根の伸長抑制について評価した際には野生型との有意な差は観察されなかったが,ABA処理下において,atcpt5は発芽率の低下,主根の伸長抑制,側根密度の減少といった点においてABA高感受性の表現型を示した.これより,AtCPT5はABAが関与する根の形態形成で機能する可能性が示唆された.