抄録
ホルムアルデヒド(HCHO)はシックハウス症候群の主な原因物質である。我々は遺伝子操作によって観葉植物にHCHOの吸収・除去能を付与し、室内環境の浄化に役立てることを目指している。HCHOは強い毒性をもつが、その作用機作は未だ明らかでない。今回、我々は、(1) 気相中のHCHO濃度および湿度を一定に保ちながら、リアルタイムで環境モニタリングが可能な曝露実験系を構築し、(2) HCHOへの曝露が植物の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。播種後7-8週目のシロイヌナズナの野生株を用いて、気温24℃、湿度51%の明条件の下、低濃度(1-1.5 ppm)および高濃度(14.5 ppm)のHCHOに対して、0および2.5時間の曝露を行い、ロゼッタ葉から全RNAを調製し、マイクロアレイ解析を行った。その結果、低濃度条件で発現量が2倍以上および1/2以下になったものの総和は、約1450個、高濃度条件下での総和は2830個であった。そのうち10倍以上および1/10以下の総和は、低および高濃度条件下でそれぞれ16および75個であった。主要代謝系の酵素遺伝子はほとんど変動せず、C1代謝系で変動したものはただ1つ(15倍増加)であった。UDPGグルコシル転移酵素、熱ショックタンパク質、DREB2A、サリチル酸応答性酵素などストレス応答やホルモン代謝関係の遺伝子の発現に顕著な変動がみられた。