抄録
アンモニアは硝酸とともに、植物にとって最も重要な窒素源である。しかし、過剰なアンモニア施肥は著しい生育不良(重量の減少・クロロシス)を引きおこす。このアンモニア毒性は、アンモニア同化による炭素骨格の欠乏が原因の一つと考えられている。一方、アンモニア毒性の症状は硝酸の添加により緩和される。硝酸は数多くの遺伝子発現に影響する重要なシグナル因子と考えられている。本研究では、アンモニア毒性が実際に炭素骨格の欠乏によるかを明らかにすることを目的とした。このため、硝酸の添加による成長の回復が、炭素骨格の増加を引き起こすかに注目した。シロイヌナズナの芽生えを硝酸/アンモニア比を8段階に変化させた栄養条件で3日間処理し、地上部の炭素・窒素化合物を網羅的に解析した。高アンモニア栄養条件では、硝酸栄養条件と比較して著しく成長が低下したが、硝酸が培地に含まれるとその低下が緩和された。しかし硝酸の有無にかかわらず、アミノ酸(特にグルタミン)が蓄積し、クエン酸回路の有機酸が欠乏した。一方、デンプン・糖(特にスクロース)含量はアンモニア栄養条件で高く、硝酸の共存により減少した。以上の結果から、アンモニア毒性には、炭素骨格の欠乏による影響は小さく、むしろ炭水化物の蓄積や硝酸の欠乏が影響することが示唆された。