抄録
我々は植物の重金属耐性機構を研究する過程で、重金属で処理したタバコのトライコームが結晶状の物質を排出していることを見出した。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を装着した低真空走査型電子顕微鏡(VP-SEM)で葉や結晶の表面を観察した。重金属処理でトライコームや結晶の数は増加することと、排出された結晶はCaを主成分とし、重金属を含有していることが判明した。結晶中の重金属の化学形態や、植物組織内の金属の分布などは、未解明のまま残されていた。その後、シンクロトロン放射光を用いた分光分析法に着目することにより、これらの点を明らかにすることができた。マイクロ蛍光X線分析法(μ-XRF)を用い、葉の元素マッピングを行った。さらに、重金属処理したタバコ葉から単離した結晶を用いて、マイクロX線回折法(μ-XRD)で結晶の主成分を、マイクロ広域X線吸収微細構造解析法(μ-EXAFS)で重金属の主な化学形態を決定した。この一連の研究により、タバコは重金属をトライコームからCa含有結晶として排出して解毒していることが明らかになった。現在、タバコ葉のトライコームからESTライブラリを作成し、重金属耐性や蓄積性に関与する遺伝子の単離を進めている。本シンポジウムでは、分子生物学と放射光化学を併用して、植物の重金属ストレス応答機構を明らかにしようとする我々の試みについて紹介したい。