抄録
鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、コファクターとして非ヘム鉄と無機硫黄原子から成るFe-Sクラスターを持つタンパク質の総称で、光合成や呼吸などのエネルギー代謝から遺伝子の発現制御にいたるまで、多彩かつ重要な生理機能を担っている。それらFe-Sタンパク質の機能を支えているのがFe-Sクラスターの生合成系である。私たちは、クラスターの生合成系として、大腸菌のiscSUA-hscBA-fdx-iscX(iscオペロン)にコードされるISCマシナリーを実験的に証明し、さらに、独立して機能する別経路としてsufABCDSEオペロンにコードされるSUFマシナリーを世界に先駆けて同定した。いずれも複数の成分から構成される複雑な酵素系で、植物ではミトコンドリアにISC、葉緑体にSUFが存在している。このシンポジウムでは、反応機構の解明に向けて、現在進めている構造生物学的なアプローチを紹介する。ISCマシナリーの中間体形成部位、IscUの結晶構造からは、三量体の中に、[2Fe-2S] クラスターを1つだけ保持する、興味深い非対称構造が明らかになった。一方、SUFマシナリーのSufCD複合体の構造からはSufBCD複合体の構造が類推でき、その作動機構への手掛かりが得られた。クラスターの生合成過程における、これら複合体の構造変換について議論する。