抄録
DNA光補修酵素の一種, Class I CPD photolyase(Phr)のDNA補修機構を動力学シミュレーション, 電子状態計算, 及び生物情報学の手法を用いて研究した.
従来、FADH-からDNAへの電子移動反応はPhr中のアミノ酸を経由せずに起ると考えられていた. 我々はラン藻A. nidulans由来のPhrとDNAの複合体構造をもとに, 動力学シミュレーションと電子状態計算を実行し, FADH-からDNAへの電子移動経路を解析した. その結果, 従来説の電子移動経路以外に, Met-353を電子トンネル電流が多く流れていることを新たに発見した(Biophys. J. 94, 2194-2203, (2008)).
そこで, 遺伝子データベースを網羅的に解析し, 異なる生物種のPhrがどの程度Met-353を保存しているか調べた. その結果, データベース中に見つかった201種のPhrは, 驚くべきことに, Met-353を100%保存していることを発見した. 一方, Phrが属するBlue light photoreceptor familyで該当箇所のアミノ酸がMet以外に置き換わっている遺伝子は170種同定された. これらの遺伝子はクリプトクロームなど, 別の機能を有する遺伝子にすべて変わっていることが分かった.