抄録
ヒドロゲナーゼは、微生物生態系の水素代謝で、重要な役割を担っている。嫌気条件下、有機物は、細菌や原生動物などによって分解され、水素ガスが発生する。水素ガスは、メタン生成菌や酢酸生成菌および、硫酸塩還元菌によって酸化される。また、一部の水素は、好気環境に分散し、好気性細菌によって酸化される。これらの水素代謝系で、水素ガスの生産と酸化を触媒する酵素が、ヒドロゲナーゼである。ヒドロゲナーゼには、[NiFe]-、[FeFe]-および[Fe]-ヒドロゲナーゼの3種類が知られている。今回、高分解能(1.75 Å)のX線結晶構造解析により、[Fe]-ヒドロゲナーゼの活性中心構造が明らかになった。[Fe]-ヒドロゲナーゼの活性中心は単一の低スピン鉄を有する錯体であり、その鉄原子にはチオール、COおよびピリジノールが配位している。この[Fe]ヒドロゲナーゼの鉄錯体構造は、[NiFe]-および[FeFe]-ヒドロゲナーゼの鉄錯体部位と類似していた。
この結果から、知られているすべてのヒドロゲナーゼの鉄錯体部位には、チオール、CO およびCN-(もしくはそれに類似したピリジノール)が配位子として含まれ、それらの立体配置もよく似ていることがわかった。タンパク質の一次構造に類似性が見られないことから、これらのヒドロゲナーゼの機能発現にとって重要な鉄錯体構造が、収斂進化によって形成されたと考えられる。