抄録
シロイヌナズナのacaulis5 (acl5)変異体は茎の伸長に特異的な欠損を示す。その原因遺伝子ACL5は,スペルミン合成酵素をコードすると考えられてきたが,最近の研究によりサーモスペルミン合成酵素をコードしていることがわかった。サーモスペルミン(C3C3C4)はスペルミン(C3C4C3)の構造異性体である。実際,外から加えたサーモスペルミンはacl5変異体の茎の伸長を部分的に回復させ,ACL5遺伝子の発現を負に制御する。サーモスペルミンの作用機構を明らかにするため,acl5変異体の茎の伸長が回復したサプレッサー変異体sac51~sac59を単離した。sac51はbHLH型転写因子mRNAの5'-upstream ORF, sac52はリボソームタンパクL10A, sac56はリボソームタンパクL4Aのコード領域にそれぞれ変異が見つかっている。さらに,sac53は活性化Cキナーゼ受容体遺伝子RACK1Aに変異が見つかった。RACK1もリボソームの構成要素であり,翻訳調節の鍵因子として働くことが動物や酵母で知られている。acl5変異体は茎の維管束に木部組織の異常な増殖,リグニンの蓄積が認められることから,これらを負に制御する因子の翻訳調節にサーモスペルミンが関わる可能性がある。