抄録
移動ができない植物にとって、環境の変化を察知し適応するシステム、いわゆる環境応答機構は、生存に密接に関わっており非常に重要な役割を持つと予想される。動物に比べ単純な体制にもかかわらず、地上を覆い尽くすほどに繁栄した裏には何か秘密があると考えるのが自然であろう。
我々は、植物の環境ストレス応答機構に密接に関与するアブシジン酸応答の解明を目的として、発芽時にABA応答に異常を持つシロイヌナズナの変異株を分離し、解析している。これまでに発芽時のABA応答を抑制的に制御する2つのPP2C, AHG1とAHG3, mRNA分解制御に関与すると思われるAHG2, 蛋白質分解制御に関与すると思われるAHG12, 葉緑体分化を制御すると思われるAHG11を、同定した。最近のABA応答機構についての知見によれば、ABA応答機構は、数種類のABA受容体とその下流で機能する多様な因子と細胞機能が複雑に関わるネットワークと考えられており、これらの因子の同定は、この考えを裏付けるものと結論づけられる。ABA応答は多様な外的、内的刺激応答に関与し、さらにはABAによる細胞機能の統御の可能性も伺える。本演題では、ABA応答研究のこれらの知見をふまえて、今一度植物細胞の環境応答機構について基本的な考え方を再考してみたい。その過程で、植物の環境応答戦略が浮き彫りにされてくるのでは、と考えている。