抄録
根粒菌の多くは、通常単独で生活する場合には窒素固定を行わない。マメ科植物である宿主が形成する根粒に内部共生することで、根粒菌ははじめて窒素固定機能を発揮する。このことは、根粒菌の窒素固定機能が、厳密に宿主植物によって制御されていることを示している。では、宿主植物はどのように内部共生した根粒菌の窒素固定機能を制御しているのだろうか。われわれは、ミヤコグサの根粒は形成されるが窒素固定機能に変異を生じたFix-変異体を用いて、宿主植物による根粒菌の窒素固定機能の発現制御機構の解明に取り組んでいる。これまでにsst1, ign1、sen1, fen1の4種類のミヤコグサFix-変異体の原因遺伝子を同定した。これらの変異体に形成された根粒の窒素固定活性は顕著に抑制されており、それらの原因遺伝子は内部共生した根粒菌の窒素固定能の発現に必須の植物遺伝子であると考えられる。このうちSst1遺伝子は、内部共生した根粒菌と宿主植物細胞を隔てるペリバクテロイド膜に局在し、ニトロゲナーゼに必須の硫黄元素を宿主植物細胞から根粒菌に輸送する硫酸トランスポーターをコードすることが明らかとなった。しかしながら、その他の遺伝子については機能が不明である。ここでは、組換えタンパク質発現系を用いた最近の知見に基づいて、Sen1とFen1遺伝子の予測される機能について述べる。