抄録
私たちはシロイヌナズナの温度感受性変異体を材料に、植物の発生・再生の基礎要因の解明を目指して研究を行っている。変異体の一つ、srd2(shoot redifferentiation defective 2)は、胚軸の脱分化および新たな分裂組織の形成に強い温度感受性を示す点に特徴がある。その責任遺伝子SRD2はヒトのsnRNA(small nuclear RNA)転写活性化因子SNAPcのサブユニット、SNAP50とよく似たタンパク質をコードしており、実際に植物細胞内でsnRNAの転写活性化に働くことが分かっている。
snRNAは、プレmRNAスプライシングやrRNAのプロセッシングなどのガイド役として、真核細胞の基本的な活動に不可欠な機能を担っている。そのためsnRNA転写は構成的、定常的なものとみなされ、その調節と発生との関係にはあまり目が向けられることがなかった。しかし、これまでにSRD2遺伝子に関して行ってきた解析の結果は、植物の発生・再生過程でsnRNA転写がSRD2による動的な制御を受けダイナミックに変動すること、この変動が発生・再生のいくつかの特定側面に深く関与することを示している。本講演では、これらの知見をもとに、植物の発生におけるsnRNA転写制御の生理的意義について考察したい。