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近年、各国政府が二酸化炭素排出削減を打ち出すなど、炭素循環に高い注目が集まっている。これら要求に対しては、光合成生物の炭素代謝の理解と制御を目的とした基礎研究が必須である。これまでに我々は、単細胞性シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のRNAポリメラーゼシグマ因子SigEが、糖異化遺伝子の発現を正に制御することを明らかにしてきた。今回我々は、SigEの過剰発現株を構築し、SigE過剰発現による糖代謝の改変を試みた。トランスクリプトーム解析の結果、zwf, gndなど酸化的ペントースリン酸経路の酵素の遺伝子やglgX, glgPなどのグリコーゲン異化酵素の遺伝子が、SigE過剰発現により誘導されることが明らかになった。ペプチド抗体を作製し、ウエスタンブロット解析を行った結果、トランスクリプトーム解析の結果と一致して、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼや6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼなどのタンパク質量が増加していた。また、グリコーゲンの減少やTCA回路の代謝産物の変動など、代謝産物レベルでもSigE過剰発現による改変が見られた。これらの解析結果をふまえ、本発表では、シアノバクテリアの糖代謝制御機構の理解および光合成微生物を用いた代謝工学への展開について考察する。