抄録
近年の研究により動物細胞はいくつかの遺伝子を導入することにより胚性幹細胞様の細胞にリプログラミングされることが分かってきたが、その作成効率は非常に低い。ところが、植物細胞は適切な条件下においては自発的にリプログラミングされることが知られている。我々は、その分子機構を明らかにするために、ヒメツリガネゴケを用いて頂端幹細胞で特異的に蓄積するコールドショックタンパク質(PpCSP1)のリプログラミングへの関与に着目して研究を進めている。PpCSP1は分化した葉細胞から頂端幹細胞への再生過程において急激に発現上昇し、なおかつ3' UTRによりpost-transcriptionalに発現抑制されていることを見いだした。3' UTRをゲノムから除去した変異株を作成したところ、PpCSP1転写産物が細胞内において蓄積することが分かった。この変異株の切断葉リプログラミングは、野生株で見られるような切断面に面した細胞のみからではなく、切断葉全体から起こることが観察された。このことは、PpCSP1がリプログラミング過程において促進的な因子であることを示唆している。PpCSP1には遺伝的に保存されたRNA結合ドメインがあることから、PpCSP1タンパク質のターゲットRNAがリプログラミング過程において重要な役割を担っている可能性がある。