抄録
イネ科植物は土壌中の不溶態の三価鉄を吸収するために三価鉄のキレーターであるムギネ酸類を根で合成して根圏に分泌する。イネを用いてムギネ酸類分泌の分子機構の解明を目指している。イネはムギネ酸類としてデオキシムギネ酸(DMA)を分泌する。08年度北海道大会では、ムギネ酸類の合成の場として提唱されているムギネ酸顆粒が鉄欠乏イネの根においても存在すること、ムギネ酸類生合成経路で働くニコチアナミン合成酵素OsNAS2と蛍光タンパク質sGFPとの融合タンパク質がイネの根において小胞に局在し、細胞内を活発に動いていることを報告した。これまで同定されている全てのニコチアナミン合成酵素には細胞内極性輸送モチーフと推定されているチロシンモチーフ及びダイロイシンモチーフが保存されている。ニコチアナミン合成酵素の局在する小胞の細胞内輸送機構を調べるために、これらの細胞内極性輸送モチーフに変異を導入したOsNAS2にsGFPを連結したコンストラクトをOsNAS2プロモーターの制御下で発現させた組換えイネを作出して解析を行った。チロシンモチーフに変異を導入したOsNAS2が局在する小胞は凝集し、動きが見られなくなった。一方、ダブルロイシンモチーフに変異を導入すると、小胞の形成が見られなくなった。ムギネ酸顆粒の小胞輸送にはチロシンモチーフ及びロイシンモチーフの関与する機構が関与していると考えられる。