抄録
地衣の共生光合成生物が真菌との共生によって得ている利益を乾燥耐性の面から明らかにし、地衣の優れた乾燥耐性機構について解明するため緑藻共生地衣、Ramalina yasudaeとその共生藻であるTrebouxiaの乾燥応答について比較したところ、以下のような違いが見られた。(1)R. yasudaeでは乾燥時に光化学系II(PSII)反応中心が完全に停止しているのに対し、Trebouxiaでは活性が一部残存する。(2)乾燥によって誘導されるPSIIにおける蛍光消光が、TrebouxiaではR. yasudaeに比べ小さい。(3)Trebouxiaは地衣に比べ乾燥時の光感受性が高く、光阻害を受けやすい。これらの違いはTrebouxiaの乾燥時における過剰光エネルギーの熱散逸機構が地衣体内で強化されていることを示している。そこで、地衣成分中に乾燥時の蛍光消光を促進する物質があるかを調べたところ、地衣の水溶性成分中に多量に含まれるアラビトールにその効果があることが分かった。アラビトール添加による乾燥時の蛍光減衰速度の増加は、ストリークカメラを用いたピコ秒時間分解蛍光スペクトル解析によって確かめられた。これらのことから、地衣体内に蓄積されたアラビトールがTrebouxiaの乾燥耐性に大きな役割を果たしていることが示唆された。