抄録
インドール-3-酢酸(IAA)は植物の生長に不可欠な天然型オーキシンであるが、その生合成経路は未だ全容解明されていない。シロイヌナズナには少なくとも4つのIAA生合成経路が存在する可能性が高く、このうち2経路の鍵遺伝子であるYUCCA (YUC)とTAA1の各多重欠損変異体は顕著なIAA欠乏性の表現型を示す。CYP79B欠損変異体も土壌でやや矮性を示す。これらIAA生合成遺伝子の変異体ではIAA内生量も減少すると予想されるが、実際には生重量当たりで野生型との大きな差は見られない。従ってIAA内生量を指標とした解析では各生合成遺伝子のIAA生合成に対する寄与は明確に示されていない。我々はこれらの変異体においてIAA代謝経路の抑制によりIAA量が補償されている可能性が高いと予想し、IAAとIAA代謝物の内生量をLC-ESI-MS/MSにて分析した。その結果、CYP79B欠損変異体でIAA-アミノ酸結合体がIAAよりも顕著に減少していることを確認した。また、エストラジオール誘導型のYUC2過剰発現体ではIAAに比べてIAA-アミノ酸結合体の内生量が著しく増加した。これにより、シロイヌナズナは生合成遺伝子の欠損や過剰発現によるIAAの量的変化に対応して弾力的に代謝経路を調節していることが明らかになった。また、IAA代謝物の分析によりYUC遺伝子のIAA生合成に対する寄与が明確に示された。