抄録
植物の葉において、細胞は向背軸における位置に応じてさまざまな分化をすることが知られている。現在までに、遺伝学的な解析から向軸側、あるいは、背軸側特異的に発現する発現制御因子がそれぞれの発現領域において細胞分化を促していると考えられている。しかしながら、これらの発現制御因子自身が向背軸にそって極性を持って発現する機構については明らかでない。
我々は、向背軸にそった極性形成機構を明らかにするためにenf1突然変異体を材料として解析をおこなっている。enf1突然変異体は向背軸にそった極性をもった遺伝子発現パターンの頑強さを欠く変異体であった。enf1突然変異体の原因遺伝子はGABA代謝経路のコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素をコードしていることを明らかにした。ENF1以外のGABA代謝経路の酵素をコードするGABAT1遺伝子を欠いた突然変異体について向背軸にそった極性をマーカー遺伝子を用いて解析したところ、gabat1突然変異体は弱い背軸側化変異体であることが明らかとなった。また、enf1 gabat1二重突然変異体の解析からENF1遺伝子とGABAT1遺伝子とは向背軸にそった極性に関して逆の効果を持っていることが明らかとなった。これら遺伝学的な解析結果と生理学的な実験結果とを合わせて、いかにGABA代謝経路が向背軸にそった極性を制御しているかについて論じたい。