抄録
リンは植物にとって生育に必須な栄養素であるが、自然状況下において植物が利用可能なリンの量は限られている。リン酸欠乏環境にある植物は、その環境に適応するために根系や代謝を変化させより多くのリン酸を取り込もうとすることが知られているが、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。最近の研究により、植物根系のリン酸欠乏応答には培地中の鉄濃度が大きく関わっている可能性が示唆されており、その作用機構を調べることは、リン応答の分子メカニズムを理解する上で重要であると考えられる。
本研究では、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いてリン酸欠乏応答におけるリンと鉄のクロストークメカニズムを探ることを目的とし、生理学的、分子生物学的な解析を行った。リン酸欠乏条件下において、鉄濃度の低下に伴って主根伸長抑制、側根数増加といったリン酸欠乏様の根系変化がより顕著に観察された。しかし、培地中の有効リン濃度や根系のリン酸取り込み速度を測定したところ、培地中鉄濃度の変化による大きな影響はみられなかった。また、リン酸トランスポーターの発現量解析の結果、培地中鉄濃度の変化に応じて発現パターンに違いが見られた。これらの結果から、植物はリンと鉄を同時に感知し、根系構築を巧みに制御することで栄養塩吸収を有利に行っている可能性が示唆された。