抄録
アグロバクテリウムを用いたイネ形質転換系はHieiら以降、多数の効率改善の報告がなされている。しかし細胞数当たりの形質転換効率は低く効率の高いイネ、日本晴培養系を用いてもカルス塊当たり数個の形質転換細胞が得られるにすぎなかった。液体振とう培養細胞は活発に増殖しており形質転換効率が固体培地上のカルスよりも高い事が予想され、また細胞塊が小さいことから数千の細胞塊を一度に取り扱うことができる利点がある。しかし継代培養、共存培養に液体培地を用いると形質転換効率が著しく低下する事が報告されていた。我々はアグロバクテリウム感染後、液体培地を吸収した濾紙上でカルスを共存培養することにより飛躍的に形質転換効率が向上することをすでに見いだしている。しかし相同組換え実験等で求められる104~105の形質転換細胞を一度に作出する事は未だ困難であった。そこで振とう培養系を用いた形質転換効率の改善を試みた。我々は培養条件、特にアグロバクテリウムとの共存培養条件を詳細に再検討することにより、N6液体培地中で約3週間振とう培養した細かい細胞塊を用いた効率的な形質転換系作出に成功した。振とう培養細胞を用いることによりカルス重量当たりの形質転換効率は既報と比較し、10倍以上向上し、培養細胞1g (fresh weight)当た104以上の形質転換細胞を得ることができた。形質転換細胞の再分化率は約60%であった。