抄録
バクテリアは,エフェクターと呼ばれる病原因子タンパク質を宿主細胞に注入することにより,植物の抵抗性を阻害し自身の増殖を行う.一方,植物はこのエフェクターを感知し,より強力な抵抗力を発揮する.本研究では Pseudomonas syringae pv. tomato (Pst.) が分泌するエフェクターの一種であるavrRpt2 をDEX誘導により発現するシロイヌナズナ形質転換体を親株として,これをEMS変異原処理して,過敏感細胞死に異常をきたす変異体を単離し,解析した.
約1,000系統の形質転換体から,過敏感細胞死に異常を示し,病原性細菌Pst. DC3000に対して,野生型並みの抵抗性をもった1系統を単離した.この変異体に,非病原性細菌Pst. DC3000/avrRpm1 もしくはavrRpt2 を接種しても過敏感細胞死は認められなかった.興味深いことに,この変異体は,Pst. DC3000/avrRpm1 に対して高い罹病性を示すが,avrRpt2 に対しては正常な抵抗性を発揮することが分かった.我々は,この変異体を avrRpt2 specific resistance with no cell death 1 (anc1)と名付けた.現在までに,このような表現型を示す変異体は報告されておらず,菌感染に対する植物の応答機構の研究に新たな知見をもたらすと考えられる.