抄録
主要作物であるイネを用いて、光化学系I循環的電子伝達活性(CEF-PSI)の窒素栄養応答の解析を行った。矮性イネ(豊雪)を、強光(HL)および弱光(LL)下、水耕栽培により3週間生育させた。水耕液の窒素濃度は、1 mM NH4NO3 (MN)および0.3 mM (LN)に設定した。光合成電子伝達活性は、クロロフィル蛍光測定による光化学系II(PSII)量子収率(QY(PSII))解析およびP700測定による光化学系I(PSI)量子収率(QY(PSI))解析により評価された。CEF-PSI活性の指標であるQY(PSI) / QY(PSII)の値はHLおよびLLともにLN条件で増大した。この結果は、光合成が抑制される条件でCEF-PSIの機能が発現していることを示す。弱光領域でのQY(PSII)の値は全イネで差はなかった。しかし、LNのQY(PSI)の値は、HLおよびLLともにMNよりも大きかった。ただし、その値は光前処理によりQY(PSII)の値と一致した。これらの結果は、低窒素生育条件で、弱光領域においてPSI電子伝達反応が活性化されること、そして高いCEF-PSI活性に貢献していることを示しており、新規な事実である。そのメカニズムおよび生理機能の解明を現在進めている。