抄録
真核生物の細胞にはオルガネラと呼ばれる膜で囲まれた細胞内器官が存在する。ペルオキシソームというのは真核生物に普遍的に存在するオルガネラであるが、その役割は生物種ごとに異なる。高等植物では、脂質のβ酸化、光呼吸、植物ホルモンの合成など最適な生存に重要な代謝反応に関わっている。そのため、これらの代謝反応に関与する酵素の変異株は矮小や胚性致死など顕著な表現型を示す。本研究で紹介する変異株peup1(Peroxisome unusual positioning)は、光合成器官である葉肉細胞においてペルオキシソームの凝集を引き起こす。しかしながら、peup1変異株は植物個体として顕著な表現型を示さなかった。原因遺伝子を決定したところ、peup1がコードするタンパク質はペルオキシソームタンパク質ではなく、オートファジータンパク質であった。オートファジーは不要なものを分解する機構として知られているが、野生株と比較してpeup1変異株におけるペルオキシソームの数が増加し、ペルオキシソームタンパク質が過剰に蓄積していることがわかった。本研究の結果は、ペルオキシソームがオートファジー様分解経路によって分解され、ペルオキシソームの適正な数と品質の管理がなされていることが示唆している。本発表では、植物に特異的なペルオキシソームに及ぼすオートファジーの役割を議論したい。