抄録
近年,細胞生物学的な過程を網羅的・経時的に追跡するための顕微鏡画像のハイスループット取得・解析技術の進展は目覚しい.このような状況において,細胞内構造の多様性を指向した画像データベースの構築と解析は,来たるべき網羅的生物画像解析に向けての礎と位置づけられる.私たちはこれまでに各種細胞内構造が蛍光標識されたシロイヌナズナ孔辺細胞を撮像対象に連続光学切片を多数取得し,取得画像群を気孔画像データベースLIPS(Live Images ofPlant Stomata)として公開・解析を進めてきた.本発表ではLIPSデータベースの解析例として,統計的な手法による各種細胞内構造の局在解析について紹介する.まず取得画像において孔辺細胞の向きや位置は様々であったため,半自動的な画像処理によりこれらを補正した.補正後,各構造につき100-120細胞の平均輝度投影像を得て,主な細胞内分布を可視化した.さらに,これらの共局在性を定量評価するため,平均輝度投影像の輝度相関によるクラスタリングを行った.一連の解析から,孔辺細胞の腹側には微小管とミトコンドリアが,背側にはアクチン繊維とエンドソームの局在が密になっていることが示唆された.また,細胞対の連結部ではアクチン繊維と小胞体の局在が確認された.現在,気孔開度の測定も進めており,本発表では気孔開閉と各種構造の分布・動態との関連についても議論する予定である.