抄録
双子葉植物の葉の表皮細胞はジグゾーパズルのような複雑な形をとるが、その形態形成過程における細胞内の動態に関しては未解明の部分も多い。私たちはゴルジ体トランス層膜に局在するSialyl Transferaseの細胞質側の部位に蛍光タンパク質mRFPを融合したタンパク質ST-mRFPを発現するシロイヌナズナの形質転換体を観察する過程で、ST-mRFPの興味深い局在を見出した。ST-mRFPはこれまでの報告と同様にゴルジ体トランス層を標識していたが、これと同時に葉の表皮細胞の形を縁取るような局在が観察された。また、孔辺細胞ではゴルジ体トランス層以外に細胞端部で強いRFP蛍光が観察された。蛍光色素FM4-64による細胞膜の生体染色と原形質分離時の観察から、ST-mRFPはアポプラストに局在することが確認された。また、葉の成長段階を追って観察した結果、細胞の成熟に伴ってアポプラストへの局在が顕著になることが明らかになった。さらに、ジグゾーパズル型表皮細胞の輪郭の曲率とST-mRFPの蛍光輝度を定量的に調べた結果、両者に強い相関が認められ、細胞の湾曲部にST-mRFPが顕著に局在することが統計的に確認された。以上の結果から、多胞体などの細胞内構造を介し細胞質成分を細胞外へ輸送する経路が、葉の表皮細胞の形態形成に関与する可能性が示唆された。