抄録
植物におけるNADとその関連物質の代謝の多様性について40種以上の植物を用いて検討した.植物では、NADはアスパラギン酸を開始物質とするde novo経路により合成され,分解産物として生じたニコチンアミドは、植物に特有なnicotinamidaseによりニコチン酸になりサルベージされる.NADの分解と再合成は,ピリジンヌクレオチドサイクル(PNC)によるが,植物には,動物には存在しないPNCVIIが働いている.これ以外に,演者らにより存在が確認されたNaR kinaseや,NR deaminaseによるバイパス経路も存在する.植物では,PNC由来のニコチン酸から,トリゴネリン(TG)かニコチン酸グルコシド(NaG)が必ず作られる.どちらの物質がつくられるかは,植物種,器官により異なる.植物界では、TGをつくる種の方が多く、特にマメ科植物やコーヒーでは多量のTGが種子に見られた。TG蓄積植物では,TGは、PNC 経由ではなく,de novo経路由来のニコチン酸から生産される可能性が高い.NaGは,ジャガイモ塊茎,アラビドプシス、カノーラなどのアブラナ科植物などで合成が認められた.これらニコチン酸抱合体の生理学的意義についても考察する.