抄録
水生植物のオオカナダモは、エロデニンと呼ばれるアントシアニンを生成する。茎からはずした葉(切断葉)をショ糖溶液中、明所で培養するとアントシアニンを生成し、クロロフィルが減少して紅葉が誘導されることから、オオカナダモは紅葉現象を解析するためのモデル実験系である。オオカナダモの黄化切断葉を0.6 Mショ糖溶液中で培養すると、原形質分離が強く起こり、細長い細胞では2個のプロトプラストに分かれる。溶液の濃度を変えないで3日間培養すると、原形質分離復帰が起こらないまま、有核部はアントシアニンを生成し、無核部は生成しない。両プロトプラストが赤くなった細胞では、両者をつなぐ細い原形質糸が観察される。この結果は、アントシアニン生成には核が必要であることを示している。また切断葉を蒸留水で培養すると、紅葉が誘導されないが、適度な紫外線を切断葉に部分照射し、蒸留水で培養すると、照射部分だけでなく葉全体の紅葉が誘導される。このことから、紫外線照射によって生じたアントシアニン生成に関わる何らかのシグナル要因が、葉内を移動するものと考えられる。さらに、切断葉を1cmの長さの茎切片とともに、蒸留水中で培養すると、切断葉の紅葉が誘導される。この現象は、茎切片から切断葉の紅葉を誘導する何らかのシグナル分子が水中に放出されていることを示している。今後この物質を純化し、解析したいと考えている。