抄録
分泌型ペプチドホルモンには,特有の翻訳後修飾やプロセシングなどによる構造の複雑化を伴うものが多いが,翻訳後修飾の種類や位置は,生理活性に決定的な影響を与える.これまで知られている分泌型ペプチドホルモン特有の翻訳後修飾のひとつとして,細胞増殖に関与するPSKとPSY1ペプチドに見られるチロシン硫酸化がある.この修飾は,ゴルジ体に局在する酵素(tyrosylprotein sulfotransferase(TPST))により付加されるが,TPST遺伝子破壊株では,根端メリステム(RAM)活性が顕著に低下することが知られている.興味深いことに,TPST遺伝子破壊株のRAM活性は,PSKおよびPSY1の外的投与ではほとんど回復しなかったことから,未知の硫酸化ペプチドがRAM形成に重要な役割を担っていることが示唆された.我々は in silico 遺伝子スクリーニングと成熟型ペプチド構造解析およびTPST遺伝子破壊株への投与実験により,PSKおよびPSY1の存在下においてRAM活性をほぼ野生型にまで回復させる新規硫酸化ペプチドを同定した.このペプチドはQC付近で発現しており,拡散性のシグナルとしてRAM活性の制御に関与していると考えられる.