抄録
接合藻ヒメミカヅキモの有性生殖は2種類の性フェロモン(PR-IP、PR-IP Inducer)による調節を受けて進行する。また、この過程で特異的に発現する数十種類の機能未知遺伝子群も単離されている。これら遺伝子群が有性生殖にどのように関わるかを検討するにあたり、我々はパーティクルガンを用いた遺伝子導入系の開発を進め、これまでにフレオマイシン耐性遺伝子bleを薬剤選択マーカーとした形質転換体の作出法について報告してきた。今回、機能未知遺伝子の過剰発現株作出を最終目標とし、その第一段階としてPR-IP Inducer過剰発現株の作出を試みた。PR-IP Inducerは窒素飢餓条件下で-型細胞特異的に発現し、+型細胞でのPR-IPの発現を誘起する。そこで、内在性の高発現プロモーター(pCpCAB1)の下流でPR-IP Inducerを過剰発現させ、かつフレオマイシンで選別可能なベクターを新たに作製し、+型細胞への形質転換を試みた。得られた薬剤耐性株では窒素源の有無にかかわらず野生型株に対して6~18倍のPR-IP Inducerの発現を示した。また、これらの株ではPR-IPの転写量は8~80倍に高まっていた。以上の結果から、これらの株がPR-IP誘導能を持つインタクトなPR-IP Inducerを過剰発現しており、本実験系が機能未知遺伝子の逆遺伝学的解析に有効である事が示唆された。