抄録
乾燥ストレス下の植物において、アブシジン酸(ABA)は細胞内シグナル伝達や多くの遺伝子の発現誘導、気孔の閉鎖、さらにストレス耐性の付与に重要な働きを行う植物ホルモンである。我々は、遺伝子発現のネットワーク解析に基づく共発現予測アルゴリズムを、野生型シロイヌナズナとABA合成関連遺伝子NCED3の欠損変異体(nc3-2)におけるトランスクリプトームデータに適用して、乾燥ストレス下の遺伝子間の相関関係について解析した。抽出され120の共発現グループ中、ストレス応答性遺伝子群が高い相関関係を結ぶグループに注目し、そのプロモーター上に共通に存在するモチーフの検索を行った。乾燥ストレスに応答して増加する遺伝子群が共発現したグループには、ABA応答性遺伝子が占めるグループとJA応答性遺伝子が占めるグループが存在した。ABA応答性遺伝子のプロモーター上には既存のシス配列ABREとG-boxが高い確率で存在し、新規のシス配列が存在する確率は低いことが示唆された。一方、JA応答性遺伝子が多く存在するグループのプロモーター上にも、ABREとG-boxが高い確率で存在したが、未知のモチーフも多く検出された。現在、乾燥ストレスに応答して減少する遺伝子群が共発現するグループに関しても同様の解析を行っており、新規の乾燥ストレス応答に関わる制御因子の探索を試みている。