抄録
赤色光(R)/遠赤色光(FR)の光受容体であるフィトクロム( phy )は、ほとんど全ての組織や器官で発現している。よって、植物体の様々な部位で感知された光シグナルは、個体レベルで適切な光応答が起こるように統合・調整されなければならい。しかし、光応答時における異なる部位間の情報交換の仕組みはほとんど分かっていない。そこで本研究では、「避陰応答」に注目し、器官間の情報交換の仕組みを調べた。「避陰応答」とは、R/FR比が低い(他の植物の陰)環境下でphyの光平衡がPfr型からPr型に傾くことでおきる生理応答である。この応答は、24時間の明暗周期の暗期開始直前に短時間FR処理を施すこと(EOD-FR処理)によっても観察される。以上を前提に、LEDによるFR部分微細照射をシロイヌナズナ芽生えにほどこし、胚軸伸長促進の光受容部位を調べた結果、光受容部位は胚軸ではなく子葉であることが示された。また、FR照射後、一定時間をおいてRを照射し、FRの効果が打ち消されるかどうか調べたところ、FR照射後4時間目で打消し効果が見られなくなった。従って、4時間以内に光不可逆的な変化が子葉内で起きたと考えられる。一方、ビデオ観察の結果から、実際に胚軸が伸長するのは、上記の不可逆的変化が終了後、数時間が経過してからであることがわかった。現在、芽生えを部位ごとに分けて、遺伝子発現レベルの解析を進めている。