抄録
光受容体フォトトロピン1, 2(phot1, phot2)は、シロイヌナズナにおいて胚軸の光屈性、葉緑体の光定位運動、気孔の光開口運動などに関与している。イネは4塩基のみが異なる2つのPHOT1遺伝子ホモログ(OsPHOT1a, OsPHOT1b)と1つのPHOT2遺伝子ホモログをもつ。Tos17挿入によるOsPHOT1a欠損変異体の幼葉鞘は野生型とほぼ同様の光屈性を示した。この結果を受けて、PHOT1aとPHOT1bの両方の発現を抑えたRNAi形質転換体を作出し、またγ線を照射したPHOT1a欠損変異体からphot1a/phot1b二重変異体を分離して、光屈性へのphot1の関与を調べた。これらの系統は、片側からの連続青色光照射(0.01-100 μmol m-2 s-1)に対して、幼葉鞘と幼根の光屈性を全く示さなかった。また、PHOT1a/PHOT1b欠損二重変異体の戻し交配により分離したPHOT1b欠損変異体は野生型に近い光屈性を示した。これらの結果は、イネ芽ばえの光屈性には冗長的に働く2つのphot1ホモログが関与すること、また、phot1が光屈性のほぼ唯一の光受容体であることを示している。イネ幼植物の第2葉身は、葉身接続部の屈曲により、青色光に応答した光傾性運動を行うことが知られている。phot1はこの光運動の主要な光受容体であることも明らかになった。