抄録
フォトトロピンはAGCVIIIキナーゼ群に属するSer/Thrキナーゼであり、N末端側に光受容領域をもつ植物特有の青色光受容体である。シロイヌナズナは23ヶのAGCVIIIキナーゼをもち、その発現パターンや生理機能は様々である。キナーゼ領域の構造はよく保存されていることから、幾つかのAGCVIIIキナーゼが同じ経路で情報伝達を行っている可能性がある。そこで本研究では、フォトトロピンの情報伝達に関する新しい知見を得るために、代表的なAGCVIIIキナーゼを人為的に過剰発現させ、それらが示す生理活性の比較を行った。具体的には、PHOT1、PHOT2、AGC1-3、KIPK、PID、OXI1の6因子について解析を行った。各々のキナーゼ領域とGFPの融合タンパク質を熱誘導型プロモーターの制御下で発現する形質転換植物体を作製し、フォトトロピン応答について調べた。葉緑体光定位運動と光屈性に関して興味深い結果が得られ、前者についてはAGC1-3, KIPK, OXI1キナーゼが、後者についてはPIDキナーゼが、PHOTキナーゼと類似の生理活性を示した。これらの結果から、AGCVIIIキナーゼは、部分的にPHOTキナーゼと同じ機能を保持していると考えられる。現在、気孔開口についても解析を進めており、これらの結果も合わせて報告する。