抄録
陸上植物においてRNA編集は葉緑体とミトコンドリアで高頻度に行われており、それらほとんどはシチジンからウリジンへの塩基置換である。オルガネラRNA編集に異常を示す変異株の遺伝学解析から、編集サイト認識にPPR蛋白質が関わることが明らかになっている。しかしながら、編集機構の詳細やRNA編集の意義については未だ不明な点が多く、RNA編集に関わるPPR蛋白質のさらなる同定がこれら疑問の解明を促進するものと考えられる。そこで我々は、植物特有のPPR蛋白質ファミリーに焦点を絞り、これら変異株の網羅的解析を行っている。本大会では、その中でも特にotp82変異株の解析について報告する。otp82は葉緑体ndhB-9とndhG-1サイトのRNA編集を特異的に欠損している。しかしながら、otp82において葉緑体NDH複合体の活性、安定性、光化学系Iとの相互作用に異常は見られなかった。この結果は、これらRNA編集はアミノ酸置換を引き起こすにも関わらず、蛋白質の機能には不必要であることを強く示唆している。また野生株ではこれら編集サイトは部分的に編集を受けていることから、一遺伝子から機能的に等価な二つの蛋白質が生じている可能性が考えられた。これら結果に基づいて、植物RNA編集の生理学的意義についても考察したい。