抄録
二次細胞壁は主にセルロース、へミセルロース、リグニンから構成され、これら生合成遺伝子の発現制御にはいくつかのMYB型やNAC型転写因子が階層的に機能することが明らかにされている。さらにシロイヌナズナを用いた包括的なマイクロアレイ解析により、これらの転写因子とセルロースやリグニンの二次細胞壁生合成遺伝子が高い共発現性を示すことが報告され、実際に複数の関連因子が単離された。そこで本発表では、新農業展開ゲノムプロジェクトにより行なわれたイネの各組織における164個のマイクロアレイデータを用いて細胞壁形成過程での共発現ネットワークを構築し、シロイヌナズナの発現ネットワークと比較した。その結果、構築したイネの発現ネットワークは一次壁と二次壁生合成遺伝子を明確に区別し、シロイヌナズナで予想されている二次壁形成のマスター転写因子のオーソログと考えられる遺伝子群が二次壁生合成遺伝子群とのみ共発現性を示した。さらに糖代謝関連酵素であるGH やGT ファミリーの発現様式は両植物種での細胞壁組成の違いを反映しており、解析手法の正当性を示していた。また共発現解析から、二次細胞壁形成過程で働く新たな転写因子を見いだしており、これらの関与も含めてイネの細胞壁形成過程の全体像について考察を行なう。本研究は農林水産省・新農業展開ゲノムプロジェクト(IPG-0003、RTR-0002)の助成を受けて行なわれた。