抄録
過酸化脂質の分解により生じるα,β-不飽和アルデヒド(活性アルデヒド種;RAL)は強い細胞毒性をもつ。RAL消去酵素2-アルケナールレダクターゼを過剰発現させた組換え植物の環境ストレス耐性から,さまざまな環境ストレスによる細胞障害へのRAL種の関与が示されている。本研究では,葉緑体で生成するRAL種を同定し,それらが葉緑体の各種酵素に及ぼす阻害効果を評価した。葉緑体の三価不飽和脂肪酸合成を欠損したシロイヌナズナfad7fad8変異株と野生株Col-0の葉のアルデヒド組成を比較し,前者で少ないアクロレイン,(E)-2-ペンテナール,マロンジアルデヒド(MDA)がリノレン酸由来であることを明らかにした。C1-C9のさまざまなアルデヒドをストロマ画分,チラコイド膜に添加すると,ホスホリブロキナーゼ,デヒドロアスコルビン酸レダクターゼ,グルタチオンレダクターゼが強く阻害された。アルデヒドの中ではアクロレインがもっとも強く,(E)-2-ペンテナールなどRAL種も強い阻害をしめした。MDAはいずれの酵素にも強い阻害は示さなかった。チラコイド電子伝達系,スーパーオキシドジスムターゼ,アスコルビン酸ペルオキシダーゼはアクロレインによっても阻害されなかった。すなわち葉緑体のリノレン酸から生成するRAL種は,特異的な標的分子を失活させることで細胞の機能障害を引き起こすことが示唆された。