抄録
表層微小管は植物細胞に特徴的な細胞内構造の一つで,細胞壁の構成成分であるセルロース微繊維の沈着方向を制御することで細胞の形態を決定する.表層微小管はM期の開始とともに消失し,G1期の開始とともに再構築するが,その制御機構については未だ不明な点も多い.我々は,細胞周期の高度な同調が可能であるタバコBY-2細胞に,GFPと微小管プラス端結合タンパク質EB1(End Binding protein 1)の融合タンパク質を発現させたBY-GEB1細胞を確立し,微小管プラス端の挙動を可視化した.そしてM/G1境界期において表層微小管の配向が整っていくメカニズムを明らかにするため,表層微小管の伸長過程の連続撮影と,画像解析およびシミュレーション実験を行なった.画像処理手法に関しては,細胞内の微小管の配向や密度を巨視的に捉えるアプローチと,微小管プラス端の挙動を個別に追跡するアプローチを併用することで,従来は主観的に把握されていた特徴を定量的な指標として測定した.シミュレーションに関しては,細胞形状を円柱に近似し,表層微小管を円柱表面に分布する線分としてモデル化し,時間経過にともなう微小管の相互作用や細胞形状の影響を検討することを可能とした.これらの結果,表層微小管の伸長に対して細胞形状が及ぼす影響が,表層微小管の配向にも関与することが示唆された.