抄録
幹細胞は自己複製を行ないながら分化細胞を作り出す細胞である。多細胞生物が正常に発生するためには、多様な幹細胞の形成・維持が適切に行なわれなければならない。コケ植物セン類ヒメツリガネゴケの発生過程では、原糸体幹細胞(クロロネマ幹細胞、カウロネマ幹細胞)、茎葉体幹細胞が形成される。我々は、このヒメツリガネゴケの幹細胞形成過程に着目し、幹細胞制御機構のモデル系として解析を進めている。
我々は、AP2/ERF転写因子ファミリーに属するPpAPB遺伝子の四重遺伝子破壊株では茎葉体幹細胞が形成されない事を発見した。また、ヒートショックプロモーターによるPpAPB遺伝子の条件的発現誘導体を作成したところ、茎葉体形成が促進された。これらの表現型から、PpAPB遺伝子は茎葉体幹細胞形成に必須な制御因子であると考えられる。従来、茎葉体幹細胞形成はサイトカイニンによって促進されることが知られていた。しかし、PpAPB遺伝子は、サイトカイニンではなくオーキシンによって発現誘導される事が分かった。この事は、PpAPB遺伝子を介したオーキシンシグナル系とサイトカイニンシグナル系の和として茎葉体幹細胞形成が制御されている事を示唆している。現在、PpAPB遺伝子の下流因子の探索を行なっており、その結果を下に、茎葉体幹細胞形成過程におけるPpAPB遺伝子、オーキシン、サイトカイニンの役割について議論したい。