抄録
ヒメツリガネゴケの葉を切断すると、48時間以内に切断面の細胞が原糸体頂端幹細胞へと変化する。このように容易に幹細胞化が起こる本系は、植物の分化全能性の仕組みを探るうえでよいモデルになり得る。私たちはこの分子基盤に迫るため、ケミカルジェネティクスにより新奇の幹細胞化制御因子を同定することを目指している。まず、約12,000種の天然および合成化合物を含むライブラリーから、幹細胞化阻害化合物の同定を試みた。切断した葉からの原糸体形成を幹細胞化の指標にして、この過程を阻害し、かつ原糸体の生育に対しては阻害効果の低い化合物の絞り込みをすすめた結果、20種の化合物を単離した。さらに、ヒメツリガネゴケの幹細胞化過程において細胞周期再開時に発現誘導されるCYCD;1遺伝子、および原糸体特異的に発現するRM09遺伝子の発現を抑制する4化合物を選抜した。これらのうち、RIN16と名づけた化合物の構造類似体であるRIN16Bはシロイヌナズナにおいてde novoの幹細胞を形成する側根形成過程を顕著に阻害することがわかった。これを利用してシロイヌナズナFOXラインを用いてRIN16Bの耐性植物を選抜し、シロイヌナズナおよびヒメツリガネゴケの双方においてRIN16Bの標的あるいは下流で機能する候補因子の解析を進めている。