抄録
硝酸還元酵素(NR)は、硝酸同化に関わる酵素である。NR遺伝子の発現は、硝酸、グルタミン、糖、光、概日リズムなどによって影響されるが、硝酸による発現誘導はこれらの中でも主要な要因のひとつである。過去に、NRプロモーターの活性はアンモニア培地で生育させた場合は高いが、硝酸培地で生育させると顕著に低くなるという形質転換タバコを用いた実験結果が報告されており、また、タバコとシロイヌナズナで行われたNR変異体の相補実験においては、わずかな活性の回復しか見られないことも報告されている。これらの結果は、NR遺伝子の発現制御機構の複雑さを現していると考えられる。今回、シロイヌナズナNR遺伝子のひとつであるNIA1の発現制御機構について形質転換シロイヌナズナを用いた解析を行った。1.9 kbのNIA1プロモーターとGUS遺伝子を用いて作製した融合遺伝子の発現は硝酸によって誘導されず、地上部では葉の排水組織でしか発現が見られなかった。そこで、GUS遺伝子の下流にさらにNIA1のストップコドンから下流の配列をつないだ融合遺伝子を作製した。この遺伝子由来のGUS mRNAのレベルは硝酸によって著しく上昇し、また、硝酸含有培地で育成した場合に葉身で強いGUS活性が見られた。以上の結果により、NIA1の正常な発現にはストップコドンから下流の配列が関わっていることが示された。