抄録
フロリゲンは、植物が花芽形成に適した環境を感知すると葉で合成され、茎頂へ移動し花成を誘導する因子として、約70年前に提唱された。その実体は長く謎であったが、近年の分子遺伝学的解析から、Hd3a/FTタンパク質がフロリゲンの分子実体であることを強く示唆する結果が得られている。これまでの知見から、フロリゲンが茎頂において花メリステム遺伝子の発現を活性化させるためには、bZIP型転写因子FDと相互作用することが重要であることが示されている。そこで私たちは、イネからFDホモログを単離しその機能を解析した。イネゲノム中には少なくとも6つのFDホモログがコードされていた。これらのうちOsFD1は分子系統樹上でFDにもっとも近縁なグループに属し、またトウモロコシの遅咲き変異体の原因遺伝子Dlf1のオーソログであった。Hd3aとOsFD1は、イネ細胞内の核において相互作用した。OsFD1はFD同様C末端側にリン酸化されると考えられるセリン残基をもっている。このセリンをリン酸化されないアラニンに置換した変異型OsFD1はHd3aと相互作用できず、過剰発現しても表現型を示さなかった。一方で、リン酸化状態を模倣するグルタミン酸に置換した変異型OsFD1は過剰発現により開花促進できることが分かった。