抄録
ステート遷移は、光合成電子伝達反応を駆動する光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)の間の励起エネルギー分配を調節する機構である。PSIの外縁部に存在するサブユニットの一つであるPsaLはおよそ15kDaのポリペプチドであり、シロイヌナズナではステート遷移に関与すると報告されているが、機能の詳細は不明のままである。本研究では、PsaLのステート遷移における役割を明らかにするために、高等植物に比べてステート遷移活性の高い緑藻クラミドモナスからRNAiによるPsaLノックダウン株を作製し、解析を行った。PsaLタンパク質の蓄積量が3%未満に減少したPsaL-RNAi株の、他のPSIタンパク質の蓄積量をウェスタン解析により調べたところ、PsaHの蓄積量のみがおよそ10%に低下していた。PsaL-RNAi株の細胞をステート1および2の誘導条件下で培養し低温蛍光スペクトルを測定したところ、ステート1ではcw-15(コントロール株)と差が無かったが、ステート2ではPSIの蛍光収率が大きく低下しており、ステート2の誘導の効率が著しく低下していることが示された。従って、クラミドモナスでもPsaLとPsaHの両方、もしくは一方がステート遷移において重要な役割を果たしていると結論された。PsaL-RNAi株におけるPSI-LHCI/II超分子複合体の形成についても、合わせて報告する予定である。