抄録
光化学系IIの電子伝達鎖において、フェオフィチンa(Ph)は一次電子供与体P680と光誘起電荷分離した後、続くキノン電子受容体に電子を渡すという重要な役割を担う。酸化還元電位は電子伝達機構を考察する上で重要な物理化学的パラメータであるが、我々は、分光電気化学的手法の適用により、従来の滴定法に起因する問題を解決し、Phの酸化還元電位Em(Ph/Ph-)を-505 ± 6 mVと決定した(Kato et al. PNAS 2009, 106, 17365-17370)。この値は、従来の高等植物における報告値と比較するために、コアタンパク質D1の遺伝子を3タイプ持つシアノバクテリアT. elongatusから高等植物のそれに近いD1:3だけが発現する株から得られた結果であるが、本研究は、通常発現するD1:1をコアにもつ野生型の光化学系IIを用いて分光電気化学測定を行ない、これらの差異を提示することを目的とした。結果からD1:1ではEm(Ph/Ph-)は-522 ± 3 mVと決定し、D1:3の場合と比べて17 mV卑であることを明らかにした。この違いは、D1:1とD1:3のアミノ酸配列の違いによるものといえるが、特にPhの直近のアミノ酸残基D1-130がD1:1ではグルタミン、D1:3ではグルタミン酸と異なることによるPhとの水素結合の有無に起因するものと考えられる。